「くだものばあちゃんの庭」愛蔵版

「くだものばあちゃんの庭」は、大人も楽しめる物語です。
長野県佐久市で果樹農家として89歳まで生きたおばあさんと、そのおばあさんが長年、大切に育ててきた桃とプルーンの畑をモチーフに描いたフィクションの物語です。

実在はしないけど、ちょっと愉快で、とてもおおらかな”くだものばあちゃん”と、相棒のかかしや、お客の動物や虫たちとの思わず笑ってしまう心温まる物語を「もも編」「プルーン編」「洋なし編」の3部作にてどうぞお楽しみください。

~「くだものばあちゃんの庭」愛蔵版~
箱入り3冊セット
1:もも編「はちのおひっこし」40ページ
2:プルーン編「四姉妹と四兄弟のけんか」36ページ
3:洋なし編「夜のかくれんぼ」40ページ

サイズ 判型四六(128mm×188mm)
価格 2980円(税込)

愛蔵版として、装丁にもこだわった本書は、大事な人や家族、お友達への贈り物として。
また、箱の小窓からのぞく景色は、中の本を入れ替えることで、8月のもも、9月のプルーン、11月の洋なしと、季節ごとに変化していくばあちゃんの庭をお楽しみいただくこともできます。
お部屋の中に飾って、こっそり、ばあちゃんのゆかいな庭をのぞいてみてください。

物語のはじまり~プロローグ~

「くだものばあちゃんの庭」はフィクションですが、ここでは、くだものばあちゃんの庭を書き始めるにあたり、そのモチーフとなったおばあさんとその家族たちの物語を紹介します。

長野県佐久市に一人のばあちゃんが暮らしていました。ばあちゃんはもう30年近く、大きな家に一人で暮らしていました。そして一人で、桃の木を育て、プルーンの木を育てて、暮らしていました。

10年前のある冬の日。89歳の誕生日を迎えた翌日のこと。ばあちゃんの人生最後の日がやってきました。これまで、元気に暮らしていたばあちゃんでしたが、数カ月前から体の具合が良くなかったのです。ばあちゃんは病室のベットの上で、とつぜん、むくっと起き上がるとハッキリとした声で、病室に集まった家族にこう言いました。
「みなさん、お世話になりました」
最後の最後まで、だれの手も頼ろうとせずに、一人でたくましく、ばあちゃんは生きてきたのでした。

その年の8月。ばあちゃんが愛し、育ててきた桃の木は、みごとな赤色に染まった大きな桃の実をつけました。その桃を一人の孫が、大事に収獲していきました。

孫は、ばあちゃんが亡くなるちょうど半年前。東京から佐久に戻ってきて、ばあちゃんの最後の年を一緒に過ごしてきました。ばあちゃんが亡くなってから、ばあちゃんの畑を継ぎました。畑に立つと、すぐそばにばあちゃんがいるような気がしました。
「よっちゃん、そろそろ桃があまくなってきたよ」
「よっちゃん、桃の木の枝ばかり切ってないで、早くプルーンをとったほうがいいよ」

ばあちゃんと会話をしているような気持ちで、孫は果樹と向き合いました。そして孫も、ばあちゃんと同じように、ももの木を愛し、プルーンの木を愛しました。
孫は、ばあちゃんの名前「しめこ(simeco)」を屋号にして、農家となり今年で9年目を迎えました。ばあちゃんが暮らしてきた家に住み継ぎ、家族もできました。
6歳になった娘が今、静かに耳を傾けます。

ばあちゃんをモチーフにした、くだものばあちゃんとかかしと、ゆかいなお客たちの物語に聞き入り、「もう一回、よんで」と母親に言います。
母親は、さっき家のプリンターで印刷したばかりの原稿用紙をそろえながら、うなづきます。

居間の仏壇に飾られた写真の中のばあちゃんの本当のエピソードではないけれど。読むと心がほっこりして、時々くすりと笑ってしまう、そんな物語が出来上がりました。